BUHIXの日記

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【感想】ネルシーニョ すべては勝利のために

 

 この記事は以下の本のレビューです。

ネルシーニョ すべては勝利のために

ネルシーニョ すべては勝利のために

 

 

概要

 柏レイソルの監督(当時)であるネルシーニョを追ったドキュメントです。発売は2011年11月30日*1。主に2009年の就任から2011年の快進撃までの出来事が記されています。本人の生い立ちについてはそこまで詳しく書かれていないので、「伝記」とはジャンルが異なるでしょう。

 同書が発売された直後の12月3日、柏は最終節でJ1優勝を決めました。J2から昇格したチームが翌年にいきなり優勝した、初めての例です*2。なお現在のネルシーニョヴィッセル神戸の監督を務めており、第5節終了時点でJ1の首位に立っています。※その後、色々あってシーズン中に辞任

 

総評

 正直に言うと「サッカーの本というより啓発書っぽいなぁ」という印象を受けました。戦術的な事柄よりはネルシーニョの人柄や人心掌握術について書いてある感じです。サラッと読めるし、ところどころ参考になることは書いてあるけど「サッカーがよく分かるようになる本」ではありませんでした。

 でもまあ、結果的には自分の関心から外れているタイプの本であっても、色々な本を読んでみるというのは良い経験になります。

 

ネルシーニョってどんな人?

戦術面では自在派

 監督には色々なタイプがあります。ネルシーニョは戦術運用の面では自在派のようです。自分の中に「理想のサッカー」があってそれを実現しようとするよりは、選手の能力を引き出すことや相手の長所を殺すことを考えるタイプです。従って1つの戦い方に固執することなく、様々な戦術を使いこなします。

 私の個人的嗜好を言うなら、この部分をもっと掘り下げてほしかったなと思います。

 

細やかなコミュニケーション

 また、選手とのコミュニケーションは密にとるタイプのようです。同書に登場する選手たちは、みな口々に「監督は自分を見ていてくれる。よく話してくれる」「こんなにリスペクトしてくれる監督はいなかった」等と語っています。

 とは言っても、選手に馴れ馴れしくされているわけではありません。選手たちのパフォーマンスが低調だと感じた時には、激しく発破をかけます。「常に選手に見られている」ことを意識し、威厳ある振る舞いを心がけているようです。そのため、選手たちからは「根っからの監督」「ザ・監督というオーラがある」とも評されています。また、チームの規律に従わない者はたとえ実績ある外国人選手であっても構想外にする、という果断な面も持っています。

 

名伯楽

 若い選手の才能を発掘することにも定評があります。同書で主に扱われた2009年から2011年の間には、酒井宏樹田中順也工藤壮人大津祐樹らを見出しました。この中で最も有名なのは酒井でしょう。現在はマルセイユ(フランス1部)に所属し、日本代表では右SBのレギュラーを務めています。他の3人も、いずれも日本代表に召集されたことのある選手です。また大津はロンドン五輪でも活躍しましたので、覚えておられる方も多いのではないでしょうか(と言っても、もう5年前か…遠い目)。

 

プロフェッショナリズム

スタッフの1人に至るまでプロたれ

 ネルシーニョは、コーチやスタッフの意見をどんどん取り入れます。それは彼らを「プロフェッショナル」と認め、信頼している証です。その代わり、彼らの仕事にはプロとしての「質」と「責任」を求めています。常に周囲の仕事ぶりに目を光らせ、気になることがあれば逐一ヒアリングを行う姿が見られそうです。

 監督業は多くのスタッフに支えられなければ成り立たない。チームはすべての関係者が「プロの仕事」をしなければ機能しない。それを理解しているからこそ、選手やコーチだけでなくスタッフの1人ひとりに至るまで「プロであること」を要求するのでしょう。

 

出来るだけ選手の人生に責任を負う 

 ネルシーニョは「チームに所属する選手たちのことは出来るだけ監督が責任を負いたい」と言います。前段で触れたように選手とのコミュニケーションを密にとるのは、ただサッカーの試合に勝つためだけでなく「選手の身に起こることに対して責任を持つため」でもあるのでしょう(「人生」という大げさな表現は私が勝手に用いただけで、本文中ではそこまで言っていないのですが)。

 「監督と対立して干される選手なんて、そいつがバカなだけだよ」という見方もあります。プロ選手は個人事業主なのですから「その身に起きることはすべて本人に責任がある」というのはある意味で正論です。同書によると、選手とコミュニケーションをとらず「黙って干す」ことを選ぶ監督も多いそうです(まあ、同書を読まずともスポーツ新聞等の色々なメディアで耳にすることですね)。

 ネルシーニョは違います。選手が不満を持っているなら出来るだけそれを聞いてやる。移籍したいと言うなら出来るだけさせてやる。見方によっては「お節介」な人間です。しかし、それもまた「監督は選手の身に起こることに対して責任を持つべきだ」という強固なプロフェッショナリズムの表れなのだと思います。

 

仕事に怒りの感情は必要ない

 この項目の最後に、ネルシーニョのプロフェッショナリズムを表すとっておきの言葉を紹介しましょう。と言っても、もう小見出しに書いてありますが……「仕事に怒りの感情は必要ない」です。名言だと思います。シンプルにして「プロとは何か」のすべてを表した言葉ではないでしょうか。

 正直、耳が痛いです。私は三十路を過ぎる頃になってやっとこれが薄々分かってきたというレベルなんで……(笑)

 

すべては勝利のために

Vitoria!

 ネルシーニョは常に勝利を目指します。また、選手やチームスタッフにも同じ姿勢を求めます。彼が監督を務めている間、柏レイソルチームスローガンは常に「Vitoria」ポルトガル語勝利の意)でした*3。それがよほど印象に残ったのでしょうか、著者も「勝利という言葉をどうしても副題に入れようと思った」と書いています。

 

常に準備しろ

 勝利のための準備ができていれば余計なプレッシャーは感じないはずだ、というのがネルシーニョの考えです。逆に言うなら「勝利を目指して日々の準備をする時点で、もうプレッシャーはかかっているはずだ。試合になってプレッシャーを感じているようでは遅いよ」ということなのでしょう。

 

優勝のプレッシャーは恐れず

 好調が続いた2011年のシーズン、彼は積極的に「優勝の可能性」を口にしました。選手に「自分たちには優勝する力があるんだ」と意識させ、さらに「優勝にはお前たちの人生を変える力があるぞ。全力を出し尽くしてもお釣りが来るぞ」と発破をかけたのです。

 日本人の監督なら「まずは目先の1試合に全力で取り組もう」などと言いそうなので、この辺りの違いは興味深いですね。やはり「勝つために毎日準備してるんだから、今さらプレッシャーを感じることなどない」というネルシーニョの哲学が表れているのでしょう。

 

ジンクスも恐れず

 また、彼はあまりジンクスというものを信じません。「このスタジアムでは勝てない」とか「このチームは苦手だ」といった類のことを、あまり気にしないようです。ちゃんと勝利のための準備をすればジンクスなど恐れることはないと考えているし、選手たちにもそう言い含めます。そして、実際に「カシマスタジアムでリーグ戦未勝利」「広島ビッグアーチで98年以来勝ちなし」等々のジンクスを次々に打ち破り、最終的には優勝を果たしたのでした。

 

おわりに(追記)

 啓発書っぽくて自分の関心には合致していなかった、と言いつつ、記事を書き始めたらついつい熱が入って長くなってしまいました。やはりネルシーニョという人物に、深い人間的魅力があるからでしょう。それが私を「この人のことを知ってもらおう。できるだけ誤解のないように書こう」と駆り立てたのです。

 分量が多く「要約」という意味では拙い記事になりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。

ネルシーニョ すべては勝利のために

ネルシーニョ すべては勝利のために

 

 

*1:amazonのデータより。

*2:その後、2014年にガンバ大阪も達成。

*3:シーズン途中で監督に就任した2009年は除く。以後、2010年から退任する2014年までの5年間、チームスローガンは「Vitoria」のまま変わらなかった。